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気まぐれに大まかに生きるブログ

読書メモ2023

つらつらと。

5.8

『銃・病原菌・鉄』(著:ジャレド・ダイアモンド)

なぜヨーロッパ人がアメリカ大陸を征服したのであって、アメリカ大陸の住人がヨーロッパを征服しなかったのか。かつては白人が黒人より優れているからである、といった、人種差別の正当化を試みるような研究が平然と行われていたが、脳の容積から言っても有意な差はなく、そういった類の研究は不振に終わっている。結論を言えば、それは「銃の発明」「病原菌への免疫」「鉄の活用」が速かったからである。ではそれを導き出した究極の要因はなにか?これを解き明かすのが本書のテーマだが、一言でいえば「環境によるもの」となる。そもそも、狩猟採集生活よりも農耕生活のほうが生活に余裕が生まれ、技術が発展しやすい。ではなぜすべての民族が農耕生活を選んだというわけではなかったかというと、そもそも農耕に適した作物が一部地域に限られていたからである。肥沃な三日月地帯が最大で、アメリカ東部やニューギニアにもあったものの、非常に規模が限定的。また、家畜に適した哺乳類も同様にユーラシア大陸が最も豊富で、他の大陸は皆無に近かった。さらに、ユーラシア大陸は東西に長い大陸であるため、気候条件の類似性から作物が他地域に伝播しやすく、農耕に使う車輪などの技術も副次的に拡散に有利であった。また、感染症は人口密度が高く、人と動物の接触の機会が多いほど発生しやすい。アメリカ大陸では、前述のとおり家畜が少なく、接触の機会も少なかったため感染症がそれほど発生せず、ヨーロッパ人と邂逅したときに一方的にヨーロッパ人から病原菌をもらい、戦闘によるものよりもはるかに多くの死者を感染症によって出すことになった。未開民族が技術や発明を受け入れないという俗説もあるが、白人の技術を採用して発展したチンブー族などの反例によって否定される。最後に、ユーラシア大陸が各種の発展に有利であるとして、なぜ西アジアや中国ではなくヨーロッパが最も先進的であったのかという疑問が残るが、肥沃な三日月地帯として名を馳せた西アジアも、森林伐採や土壌の風化、塩害などによってその肥沃さは年を経るごとに失われていったこと、また中国に関しては、ヨーロッパと比べてあまりに広い範囲が政治的に統一されているがために、文化・技術が花開くときは華々しいが、権力闘争や権力者の判断ミスなどによって、地域が衰退するときの振れ幅もまた大きいためである。

6.11

『ミクロ経済学』(著:八田達夫)

貸家の市場価値は、その現在価格に等しくなるが、現在価格は(家賃の額が変わらなくても)利子率によって大きく変動する。賃金は、労働の限界生産物価値曲線によってきまる。著名なタレントなどのスーパースターはどれだけ税率が高くても労働供給量が変化しない経済レントであり、高い税率が正当化される。賃金の下限規制(=最低賃金)は、価格の上限規制と同様の仕組みによって、非常に大きなDWLを発生させる。満員電車の混雑を軽減するため、ダイナミックプライシングが有効だが、単純な2段階の料金設定にすると、境目の時間帯が過剰に混んだり空いたりしてしまうので、毎分ごとの料金設定が必要。

6.19

『バカと無知』 (著:橘玲)

キャンセルカルチャーは、ノーリスク・ノーコストで行える娯楽として世界中に浸透してしまった。バカは自覚できず、自分を過大評価する傾向がある(ダニングクルーガー効果)が、ヒントを与え、他人の回答を見せると改善される。話し合いによって民主的に意思決定させるときにその精度を上げるには、バカをその話し合いから排除するのが最も効果的である、という、民主主義を否定する結論が導かれる。これを回避するには会話をせず、事実のみを報告するとうまくいきやすく、これは否定される側の自尊心の問題と思われる。組織内の上下関係がフラットになった負の側面として、コミュニケーションが攻撃として受け取られやすくなったという面がある。上下関係がはっきりしていれば、コミュニケーションに不満があってもそれは「仕方ないもの」として、それによって自尊心が傷つくということは少なかった。日本人の3人に1人は日本語が読めない。投票は、その判断材料にすべき情報の収集が最もコストが高く、知り合いの依頼をもとに投票するという行動が多く発生する原因の一部をなす。自分が得するよりも、相手が不利になる選択をする傾向がみられるが、これは集団生活内での競争意識によるものかもしれない。自尊心は結果に対して付与されるものであって、ほめて伸ばす教育は逆効果である。自分の外見の第三者からの評価は本人の幸福度に影響しないが、自分自身に対する外見の評価は幸福度に影響する。ただし、収入には1割程度の差がある。とはいえ、外見は小さいころから変わらず本人は慣れているので、それによって幸福度は影響しない模様。IAT(implicit association test)をすると、人種に対する無意識的な紐づけが確認できるが、これは白人だけでなく、黒人自身であっても黒人に対するネガティブな偏見がみられることが多い。男女の性差は妊娠・出産などの生殖関連のものに限るというのは科学的に誤りで、網膜のM細胞(動き)とP細胞(色)の分布や、テストステロンの分泌量など、様々な点で性差が存在する。ピグマリオン効果は存在するが、一部の人間かつ関係性の初期段階に限るなど、効果は限定的。共感力があれば世界は優しくなると思いきや、共感力を左右するオキシトシンを投与された人間は、内集団に対する共感力を高めるのみで、外集団へは敵対的になった。愛は世界を分断する。記憶は捏造可能であり、記憶回復療法という名の似非科学によって娘が父親を訴訟するなど、回復不可能なほどの関係性の破壊の事例が多発した。高所恐怖症と転落体験の有無には負の相関があり、もともと不安を感じにくい人ほど注意の欠如から転落を経験し、その後も傾向が変わらず高所恐怖症になりにくいということを表している。

7.8

『ザイム真理教』(著:森永卓郎)

専売公社(のちのJT)は大蔵省の奴隷であり、著者自身も大蔵省に振り回される経験をした。銀行は信用創造といって、実際に保有している預金残高以上の金額を企業などに貸すことができる。財務省に刃向かいそうな国会議員や新任財務大臣には、財務省の「ご説明」攻撃が襲う。国のネットの借金はとても少なく、現在は心配する必要はない。財務省は国の資産を流動性が低くて売れないと反論するが、実際には国のほとんどの資産は株式またはリースバック方式で売れる(無論、実際に売るべきといっているのではなく、それだけ額面上の債務残高には意味がないという論旨)。日本国債は170兆円分以上が海外投資家による保有であり、実際には高く信用されている。2020年のコロナショックにより財政赤字は大きく膨らんだといわれるが、ハイパーインフレは起こらなかった。財務省自身は一体いくらの財政赤字になったのかをできるだけ隠そうとしているが、2022年7月29日の経済財政諮問会議内閣府が提出した「中長期の経済財政に関する試算」 という資料には、2020年度のプライマリーバランスは80兆円の赤字と記載されていた。